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彩乃と美波が誰もいないお店でゆっくりした時間を無駄に潰していた。店の外は相変わらず観光客が行き交い,目の前に見える江ノ島水族館はチケット売り場の前に長蛇の列ができていた。
「新しい店長,全然お店に来ないね……」
「そうですね……彩さんは,あの店長どう思います?」
「最初は鈴本さんよりマシかと思ったけど,中村さんのほうがひどいかな……」
美波は一瞬険しい顔を見せたが,彩乃に気付かれる前に平静を装った。それでも目尻が微かに痙攣し,胃がギリギリと締め上げられ吐気がした。ふっと鈴本の顔を思い出すと,何千本の針で胸の奥を執拗に刺されているような気分になり,涙が溢れ出しそうになった。そんな顔を彩乃に見られないように背を向けて作業をした。
「ですよね……」
「留美さんが最初,中村さんを可愛いとか言ってたんだよ」
「あぁ……確かに中村さんは黙ってたらイケメンですよ。彩さん的にはどうですか?」
「ないな……仕事させたらクズだしね」
美波は既に綺麗に片付いているキッチンをペーパータオルで何度も拭きながら,呟くように答えた。
「ほんと……クズばっかりですね……」
「え……?」
美波の声はか細くすべては聞き取れなかったが,みんなクズだと言っているのは感じ取れた。彩乃はなんて応えてよいのかわからず,黙ったまま外の景色を見た。
客のいない店内は音楽もなく静かで,目の前の道路を走る車やバイクの音しか聞こえなかった。窓越しに見える海がやけにキラキラと光り,お店のドアが2つの世界を完全に遮断しているように思えた。
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