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とりあえずあの空間を抜け出せば奇妙な体験は終わる。そう思っていた。けれど事態はそんなに生易しいものではなかった。
市街地に向けて県道を走る間、田んぼや畑に、ごく普通に物の怪たちがいた。
田んぼのあぜ道で、紫色のスカーフを首に巻いた大男が農夫と話し込んでいたが、頭も体も石だった。
「田の神さんかも」
ヘルメット越しに、後ろの少女がやけくそ気味に叫んだ。確かに、田んぼのあぜに、あれによく似た石像が祀られているのを見たことがある。なるほど、田の神か。賢治は少女に大きく頷いてみせた。いろいろ感覚が麻痺してきた。
どこか人通りの多いバス停近くに少女を降ろそうと思ったが、どこに行っても物の怪たちは我が物顔で町を闊歩していた。うしろに乗った少女の手が腹に食い込む。怖がっているのは間違いなかった。
タイミングの悪い事に、ストレスに弱い賢治の腹まで急に雲行きが怪しくなった。少女ががっちりつかんでいる腹が、ぐるぐると音を立てる。
前方に目を凝らしてトイレのありそうなコンビニを探すが、田んぼや畑ばかりの細い県道に、そんなものは見当たらない。けれど急を要する。日も陰って来たし、更に焦りは増していく。
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