HOME ~この空の下で~

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 幸いな事に、シンプルで清潔そうな店内に、特に変わった生き物は居なかった。カウンター席にひとり小太りな夫人が座っているだけで、ほかに客はいない。  カウンター内に立つ、綺麗な顔立ちの青年がマスターなのだろう。スラリと細身で背が高い。こちらを見ながら「いらっしゃいませ」と、優し気な笑顔を向けてくれると、賢治は陽菜と顔を見合わせ、安堵の息を吐いた。  先にトイレを使わせてもらって店内に戻ってみると、陽菜はカウンター席を勧められたのか、先客の女性のふたつ右側の席に座って、うつむいていた。  賢治がその横に座ると、ほっとしたような顔を向けて来た。頼られてる。その感覚が賢治の背筋をシャキンとさせる。 「マスター、あの……」 「外は暑かったでしょう。こちらの可愛いお客さんには当店オリジナルの星月夜ドリンクをご注文いただきました。お兄様はどうなさいます?」  アッシュブルーに染めた髪をサラリと揺らし、マスターは陽菜の前に、澄んだブルーの炭酸水を置いた。クリスタルイエローに輝く星型の氷が表面にいくつも揺れて、なるほどネーミング通りの美しい飲み物だ。陽菜もうっとりとグラスを見つめている。  けれど取り急ぎ賢治には、そんなことより重要な質問があった。
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