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「あの、俺はアイスコーヒーでいいです。それよりも、マスターに訊きたいことが……」
「お客さん、遠くから来られたんですか?」
マスターは手早くアイスコーヒーの準備をしながら、視線をふっと賢治に向けた。瞳が光の加減で金色に見える。カラコンなのだろうか。初めて会ったはずなのに、どこか懐かしい、奇妙な感覚だった。
「俺は……ひとり旅をしてる途中なんだけど、曽木の滝で奇妙な事になって、バッタリ会ったこの子と慌てて逃げて来たんです。あの……ここって一体……どんな……」
「ここ? ご存知ないですか?」
「いや、俺、8年前まで住んでたからよく知ってるけど、ここ、いつからこんな風になったんですか? 前はこんな、河童なんて―――」
「しっ」
急にマスターが唇の前に人差し指を立てた。
「え」
「ガラッパは河童って言われると機嫌を損ねるから」
「あ、ガラッパ。そうだ、川内川の河童は、ガラッパって呼ばれてるんだった」
ドリンクを半分飲んで少し落ち着いたのか、陽菜が元気な声を上げた。賢治もその伝説の妖怪の名に聞き覚えはあったが、問題はそこじゃない。
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