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そのあと華京院がウライサについて補足してくれた。
ここにいるガラッパや白狐や、人間には不気味に見える物の怪たちは、もう長く人間たちと混ざって暮らしているので恐ろしい存在でない事、ただ、ガラッパは子どもっぽいところがあるので怒らせたらとても厄介だという事、普段は伊佐とウライサの間は遮断されているが、たまに磁場か何かの異常で扉が開き、そしてほんのたまに、そこを潜り抜けてしまう厄介な人間がいるのだという事。
つまりは賢治と陽菜は、たまたま扉を抜けて来た、厄介な人間だというのだ。
「じゃあ、またあの扉が開けば戻れるんですね。華京院さんは行き来してるから、いつどこに開くか分かるんですよね」
「行き来なんかしてないよ。こっちの影のようなもう一つのイサがあるって事は、あたしの水晶が時々映してくれるから知ってるけどね。あの扉がいつどこで開くかも、直前まで分からんよ」
「え、でも2時間くらい前、導水路ですれ違ったのは……」
「だからそれはあっちの世界の私だろうよ。マスターの話きいてたろ? あっちの伊佐にいる人間はこっちのウライサにもいる。影のように同じ生活をしてるのさ」
「ん……」
改めてその構造を想像してみた。背筋がぞわぞわする。とても奇妙で気持ち悪い。
「ただ、摂理なんだろうね、あっちの住人がこっちに入り込むと、こっちの人間はあっちに放り出される。二人がかちあう事はないよ。入れ違いにあっちに行ったお嬢ちゃんは、あっちで少しばかり慌ててるだろうけどね。まあ、ウライサの人間は物の怪のお陰で順応性が高いから、案外楽しくやってるかもしれない。一つ教えといてやるが……」
華京院は声を低くして身を乗り出して来た。重大な事かと耳を近づけると、「この事象を知ってるのは世界広しと言えどもあたしだけだよ」と、ちょっと自慢気に口角をあげてみせた。
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