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9月初旬の午後。
すぐ近くにある壮大な滝の音を聞きながら、水上賢治はゆっくりと曽木の滝公園を歩いた。ふつうの観光客に見えるように、のんびりと売店や案内板に視線を流しながら。
けれど賢治の心臓は、駐車場にスクーターを停めた時から落ち着きを失くしていた。原因は、公園入口で立ち話をしていた二人の警察官のせいだ。
まさかこんな所に自分の手配が回っているとは思いにくかったが、逃走を初めて丸3日、警察官の姿を見ると、条件反射のように体が強張った。
自分が犯した罪の重さは賢治自身、よく分かっていた。だから3日前から携帯電話の電源は切り、ニュースも一切見ないようにした。逃走するのに情報など不要なのだ。
捕まる気などない。けれど、このまま逃げ続ける気もなかった。
どこかちょうどいい場所を見つけたら、このろくでもない人生を終えるつもりだった。ただそれだけのためにこの3日間、相棒のスクーターで彷徨っていたのだ。
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