HOME ~この空の下で~

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 とんでもない状況に、頭がついていけない。背中がゾクゾクする。賢治のTシャツの裾をキュッと握って来た陽菜の手を、そっと握ってやる。  万が一元の世界に帰れなくても、陽菜はここで生きていけるかもしれないと思った自分が甘かった。ここは危険過ぎる。オモテ伊佐の人間が住めるところじゃない。陽菜を元の世界に帰すまでは絶対に気を抜けないと賢治は強く思った。 「陽菜ちゃん、俺なるべくそばに居るよ。陽菜ちゃんの家の傍で野宿してもいいし、学校にも一緒に行ってあげる。ここじゃ陽菜ちゃん、俺しか頼れないと思うし。俺もどうせ1人じゃ心細いしね」 「賢治さん」  陽菜はためらいもせずガシッと賢治の手を握ってきた。気恥ずかしくてたまらなかったが、賢治はそのまましばらくじっとしていた。頼りにされるという感覚は、何とも言えず自分を奮い立たせてくれる。 「良かったね、陽菜ちゃん。扉が開くまでは、賢治さんに甘えたらいい。ここは年中無休だし、華京院さんも入り浸ってるから、困った事があったらいつでも寄ってよ。また特製ドリンク作ってあげるから。あ、今日のは僕のおごりね」  マスターの笑顔は優しく慈愛に満ちていて、賢治まで温かい気持ちになった。
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