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「ドローンを操ってる西島君があんまりカッコよくて、じっと見つめていたのがいけなかったんだと思うんだけど、急に沙也加が大声で笑い出して。『やだ陽菜の目がハート。前から思ってたけどやっぱり西島に惚れちゃってるんだね。おっかしい~』って。沙也加と仲のいい女子もみんな笑い出して、西島君も、びっくりしたように私を見て。
もう、私頭に血が上っちゃって、そんなんじゃないから!って沙也加に怒鳴ったら、沙也加よろけて西島君にぶつかって、西島君ドローンの操作誤って水中に落としちゃって、その後はもう、皆の非難が私に向かってきて。
ダムに飛び込んで死んじゃおうかと思った。ただそれも悔しくって、もうみんな消えてなくなっちゃえって、走って逃げたの。
自分が跡形もなく消えてなくなるか、学校のみんなが消えてなくなるか。この一瞬でどっちかが叶うなら悪魔に魂売ってもいいとか、本気で思いながら走って……。そしたらいつの間にか目の前に扉があった」
もう涙も浮かべずに、陽菜はただ、正面の壁を見つめていた。たかが子供の喧嘩などと笑う気には少しもならなかった。
賢治にも分かる。人が一番悔しくて哀しくて死にたくなるのは、自分の尊厳を軽々しく踏みにじられた時だ。
「辛かったね。俺がその場に居たら、笑ったやつらみんな殴ってやったのに」
賢治の言葉に陽菜は「ありがとう」と、小さく笑い返してくれた。
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