HOME ~この空の下で~

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「願いが叶ったのかな……って、ここへきてちょっとだけ思ったんです。でも結局は、元の世界と人間関係は何も変わらないんだって分かって……。 逃げても無駄なんだなって、ちょっと笑えて来ました。ウライサもきっと、私に甘い世界じゃないんだと思う」  この子はそんな苦い思いを抱えながら、喫茶店でマスターや華京院の話を聞いていたのか。あきらめに似た陽菜の表情が、賢治には堪らなく辛かった。 「でも、賢治さんが居てくれて本当に良かった。それだけが今日唯一のラッキーかな。一人だったらもう、どうしようもなくてずっと泣いてたと思います」 「それ、すっごくうれしい。マジで。俺なんてほんと、今まで人に感謝されたことないからさ」 「そんなことないと思います。今まで会った大人の人の中で一番優しいです」  陽菜は力を込めて言う。嬉しかったが、同時にこの子を騙しているようで泣きたくもなった。  目の前の男が、人の命を奪っておきながら逃げ回り、死に場所を求めて彷徨っていたなどと知ったら、一体この少女はどう思うだろう。
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