HOME ~この空の下で~

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 8年前まで住んでいたこの伊佐のことをふっと思い出したのは、行くあても気力も尽きた昨日だった。  賢治は今年28歳。女手一つで賢治を育ててくれていた母親が8年前に他界したのを機に、この故郷を出て福岡に働きに出た。  だからもうこの町に賢治の家族は居なかったし、勉強もせず遊びまわっていた頃の仲間など、もう連絡さえ取り合っていない。  ただ、働き者だった母親がずっと勤めていた売店のあるこの曽木の滝公園は、奇妙に懐かしい場所だった。  小さなころは、休日ずっと売店や公園の周囲をチョロチョロ走り回り、展望台の方に行っては美しくも壮大な曽木の滝を眺めて過ごした。  勉強が嫌いで、上手くなじめなかった小学校や、ひとりぼっちで退屈だった家よりも、ここで滝や導水路や神社のある丘を散策して過ごした時間の方が、よっぽど良い思い出として残っている。  最期にもう一度だけあの場所に行ってみよう。そう思って立ち寄ったのだったが。  やはりもう逃げ場はないのだろう。自分が犯した罪は、きっちり自分の精神を追いこんで行く。  自分のようなダメ人間は、やはりどこかでひっそり消えてなくなる方がいいのだ。
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