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感無量で賢治は華京院を見つめ、そして深々と頭を下げた。必ず返しに来ますと。
そのままドアに向かおうとしたが、「ちょっとお待ち」と、再び声を掛けられた。
「はい?」
「あんた、向こうの世界で何かやらかしたか?」
ギクリとして、賢治は表情をひきつらせた。
「え、何の事でしょう」
「あんた、あっちに帰る気がまるでないだろう。その水晶は触れた人間の内面を映す。もし、あっちで追われてこのウライサに逃げ込もうとしてるんなら、考えが甘いよ」
華京院の声は穏やかだったが、賢治の胸にひんやりと突き刺さって来た。
「昨日はお嬢ちゃんが居たから言わなかったが、伊佐の人間でないあんたは、このウライサでは虚像に過ぎない。半月と待たずに消えてなくなる。それまでに扉が開いたとして、その扉を抜けなかったらアウトだ。
ウライサはずるい人間には甘くない。ここを丁度いい逃げ場所だと思ってるなら大間違いだよ」
賢治は手の中の水晶をぐっと握った後、もう一度華京院とマスターに頭を下げ、店を飛び出した。
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