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スクーターを走らせながら考える。そうだ、自分はこのウライサに来れたことを、陽菜よりもずっと喜んでいたのかもしれない。
自分はこの世界では人間ですらない。元の世界では犯罪者として追われていても、ここなら、ただの物の怪だ。物の怪上等。
消えてなくなると聞いても、どこか現実離れしていて、怖くはなかった。
けれど、華京院の「ずるい人間」という一言が心に刺さった。結局水上賢治は、ずるい人間としてこの世から消えることになるのだ。
時刻は8時半。賢治は胸のモヤモヤを抱えたまま、始業時間ぎりぎりに、陽菜の高校の門に滑り込んだ。
華京院の言った通り、校舎に入ろうとする賢治を止めようとするものは居なかった。それどころか、ヨレヨレの白Tシャツとジーンズの賢治に、すれ違う教師も生徒も小さく会釈をした。
嬉しいというより少し不気味に思いながら、陽菜のクラスである1年2組の教室の前まで来た。
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