HOME ~この空の下で~

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「いつになく優しいじゃん。自分に気のある子の肩は持ちたくなるのかな、男って」  沙也加の言葉に教室中がざわついた。Bグループ以外は知らなかっただろう話題だ。“小宮陽菜って西島に気があるの? 告ったの? あの西島に? 勇気ある~。” 話しに加わらなかった男子たちまで、興味を持ったように西島や陽菜に視線を向け始めた。  陽菜は無言のまま真っ赤になってうつむいた。 「なにそれ。そんなんじゃねえよ」  西島は苛立ったように言ったが、語尾は弱まり、そのまま静かにまた自分の席に座った。  分かる。こういう時女子に何を言っても大抵自分の不利な方向にしか行かない。団結した女子には逆らわない方がいいというのは男子の暗黙の了解なのだ。陽菜に対する感情の有無よりも、その話題の中から一刻も抜け出したいという心情。賢治はもう忘れかけていた中高生時代の青くて苦いアレコレを思い出しつつ、西島に同情した。  この状況で西島に陽菜を守れと言うのは酷だ。ここで動くべきは自分しかいない、と賢治は勢いよく教室内に足を踏み入れた。  賢治の踏み出した大きな足音に、教室の生徒は一斉に振り返った。前列の物の怪たちもゆっくり振りむく。  ……あれ、俺って天狗だよな。天狗は教室に入っちゃいけないって事無いよな。  じんわりと汗をにじませながらその場で固まっていると、前の方の入り口から勢いよく担任らしい中年の教師が入って来た。 「はい、みんな席について」 そしてすぐに賢治と目が合う。 「あ、これはどうも。今日ひとり欠席がいますんで、とりあえずそこにどうぞ」 西島の後ろであり、陽菜の左斜め前の席だ。
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