HOME ~この空の下で~

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 2時間目は現国。眠気に耐えながら黒板とプリントを交互に眺める。周りを見ると、みんな真面目に授業を聞き、ノートを取っていた。懐かしいというより、新鮮な気持ちだった。自分は高校の時、なぜあんなに不真面目だったのだろうと賢治は思い返した。  母親は賢治の授業料や、やがて行くだろう大学の学費を稼ぐために休む間も無く働いていた。売店の仕事の後、コンビニの仕事もするようになって、帰宅も遅く、賢治が学校を休んでも仲間と原付で走り回っても、何も言われなかった。  遊びまわる仲間がいることは心強かった。自分の頭が悪いのは親譲りで、そして家庭環境のせいだと思っていた。遊び仲間たちも皆、口々に似たようなことをぼやいた。  高校だけは何とか卒業したが、大学には行かず、バイトを転々として母親のすねを齧り続けていた。  20歳の時母親は過労からくる病でこの世を去った。「お母さん無理してたの気づかなかったの?」、と看取った医者に言われ、賢治は頭を殴られた気がした。  親を弔った後、賢治は伊佐を出た。ここでないどこかに行って、また一からやり直してみようと思ったのだ。  全く違う土地に行けば、今までの自分と決別して、新しい道を歩けるかもしれない。母親が残した僅かな金で、新しい自分を始めよう、と。
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