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そうはいっても、警官がのんびり休憩をしているかもしれない公園内に戻る気にもなれず、賢治はとりあえず川下に向かって伸びる、細い散策路をゆっくり歩いた。
すぐ横を流れる川内川のせせらぎ。秋蝉の声。夕刻の木漏れ日。すべて懐かしかった。小さなころ何度も辿った散策路だ。何も変わっていない。景色も音も匂いも。
なのに、ここにいる自分は小さなあの頃の自分ではなかった。足元を這う蟻よりもみじめでちっぽけで、生きる価値もないクズだ。いったい自分はどこで道を踏み誤ったのだろう。
朝からろくに何も食べていない胃がキリキリと痛む。賢治はそのまま、引き返すこともせずに小路を進んだが、もはや何のために歩いているのかさえも分からなかった。
散策路はやがて涼し気な石畳の道になり、緩やかなカーブを描いた。この先にあるのは導水路だ。その昔、旧曽木発電所に水を送っていたという水路の名残りだ。
所どころ苔むした石造りの壁やトンネルは、まるで別の時代や異次元への入り口のようで、小さなころは1日何往復もして、遊んだ記憶がある。
けれど知っている。あのトンネルはどこにも通じていない。ワクワクするような世界の入り口などどこにもない。
あの頃の水上賢治は、結局こんな情けない水上賢治になるために、膨大な時間を使い、この道を歩いて来たのだ。こんなに無駄な事はないな。卑屈な笑いと苦い悲しみが込み上げてくる。
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