HOME ~この空の下で~

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 福岡に行き、繁華街にある飲食店で住み込みのバイトをした。けれど1年後、バイト仲間との金銭トラブルでそこを飛び出し、あとはコンビニやパチンコ屋や飲食店、いろんな仕事を転々としたが、定着しなかった。  自分は半端もんだし、結局世間にも相手にされないのだ。頭に沁みついたそんな想いから、なかなか抜け出せなかった。  それでも知り合いの穴埋めで入った短期の引っ越し業者の仕事は、珍しく肌に合った。先輩や同僚が優しかったのだ。頼み込んで賢治はそのまま雇ってもらう事にした。  1年ほどがむしゃらに働いて、そこそこ貯金もたまって来た頃の事だ。賢治は依頼客の一人、25歳の和美と出会った。  和美は父子家庭で育ち、その父はずっと入院中で、大学もやめて、今はバイトをしながら父を看病しつつ、看護師の資格を取るために夜間、勉強しているのだと言った。  とても美人で笑顔が華やかで、賢治は引越しの仕事が終わった後も、何度か連絡を取った。携帯番号は和美の方から教えてくれたのだ。賢治が親もなく一人で頑張っている姿に勇気を貰ったと言って。  お互いが休みの日は連絡を取り合って、お茶を飲みながら話をした。映画を一緒に見るだけでも、とにかく幸せな気分だった。  和美の美しさにすれ違う人が振り返る。まるで自分が称賛されているようで、賢治はやけに嬉しかった。その後の付き合いも順調だった。
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