HOME ~この空の下で~

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 和美のマンションはもちろん知っていたが、散らかっていて恥ずかしいからと、遊びに行った事は無かった。賢治のアパートは畳も饐えってかび臭く、とても女性を呼べたものじゃない。デートはもっぱら賢治のスクーターに2人乗りし、近くの公園に行くくらいで、本当に中高生のような清い交際だった。  それでも確かに“交際”だと、賢治は思っていた。 『父が手術をすることになって……。これから夜もバイトをしなきゃいけないし、もう会えないと思うの。ごめんなさい』  ある日突然の和美の言葉は青天の霹靂だった。サラ金で金を借り、ホステスまがいのバイトで返済するというのだ。その頃には和美との将来も考えていた賢治は、とんでもない話だと和美を叱った。 「なんで俺を頼ってくれない。俺だって少しの蓄えはある。和美のためなら何だってするよ。君は夢を諦めちゃいけない!」  泣きながら和美の手を掴んだ賢治に、和美も泣きながら礼を言って来た。すぐに銀行から貯金を全額引き出して、その足で和美に届けた。和美はやはり感激して泣いてくれた。 『これできっと父も元気になると思う。ありがとう』  けれどその日から、ぴたりと和美からの連絡は途絶えた。
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