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以前引越しの依頼を受けた和美のアパートに行ってみたが、空き部屋になっていた。仕事仲間にも頼み込んで、とにかく和美を探し回った。
ようやく、和美らしい女性の引っ越しを手伝ったという情報を貰い、仕事を休んで張り込んでいると、3階の一室から、背の高い茶髪男と笑いながら出てくる和美を見つけた。
死に物狂いで階段を駆け上がって和美の前に仁王立ちし、説明を求めたが、もうその時には賢治には全部分かっていた。自分は騙されていたのだと。
「ヤダ、誰この人。頭イカレテるんじゃない?」和美がゴミでも見る目で見て来る。
「ああ、こいつ?」男が下卑た笑いを浮かべ、和美に視線を送る。
グルなのだ。瞬時に悟った。
「じゃまだよ、どけカス」男は、もうお前なんぞに用はないとばかりに、賢治の足元に唾を吐き捨てた。
自分は、自分で思っているよりも自制が効かない人間なのだと、改めてその瞬間思った。
けれどもう、そんなことはどうだってよかった。賢治は仕事で鍛えた筋力を全て使い、階段を降りようとしている男の背に体当たりした。
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