HOME ~この空の下で~

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「なによ、みんな昨日は遠いし部活休み辛いし、めんどくさいって言ってたじゃない。撮影以外にも、編集とかナレーションとか、やることいっぱいあるでしょ。分担しようって言ってんのよ」  沙也加が先ほど口を開いたグループの数人に食って掛かる。今までこういう不利な形勢になった事が無いのか、やや声が上ずり気味だ。  陽菜への攻撃の時は加勢した取り巻きたちも、援護射撃できず、互いに顔を見合わせている。 「私、行くよ沙也加。昨日さっさと帰っちゃった罪滅ぼしに、倍ほど頑張る」  陽菜の快活な声が重い空気を突き抜けた。 「どんな映像が出来あがるか、その過程を見たいと思うし。それに沙也加が用意してくれた最新のドローンの威力、見たいもん。みんなもきっとそうだと思う」  陽菜が周りを見渡すと、皆それぞれに頷いた。沙也加を責めることなく、プライドを傷つけることなく、場の空気が一つにまとまったのが賢治にははっきりと感じられた。 「……うん、そうだね。みんなで行こうか」  沙也加がまだ少し微妙な表情のままそう言ったところで、ちょうど5時間目の予鈴が鳴り、ひょろりとした年配の教諭が入って来た。  みんな蜘蛛の子を散らすように自分の席に着く。心なしか教室の空気は明るく感じられた。短いやり取りだったが、変えたのは陽菜だ。たぶん皆、それを感じているに違いない。  ―――この世界がいったい何なのか、陽菜は答えを見つけたのだろうか。  賢治は少し眩しい気持ちで、斜め後ろの席の陽菜をそっと見つめた。
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