HOME ~この空の下で~

51/97

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
 拝み倒し、他のクラスの担任に大型バンで曽木発電所遺構近くの駐車場まで送ってもらったBグループの8人プラス天狗一匹は、頑張れよと言い残して去って行った車に感謝の気持ちで手を合わせた。  最寄りのバス停から歩けば1時間近くかかるだけに、かなりの時間短縮だ。  メンバーでもないのに勝手に加わった天狗には、だれも何も触れない。自分は他の生徒に見えているのだろうかと賢治は心配になったが、目が合うとみんな小さく会釈してくれるので、存在はしているようだった。奇妙だが、嫌な気はしない。  皆について細い道を辿って行くと、つくつくぼうしの鳴く木立の道が開け、遺構を眺望するための展望台が見えて来た。賢治も子供の頃、母親を待ちながらぶらりと一人で見に来たことがあったが、時期がずれていたため、一部分しか見れなかった。  この曽木第二発電所は明治時代に建設されたが、鶴田ダムの建設と共に役目を終え、1965年にダムの底に沈んだ。今は、洪水予防のためにダム湖が水位を下げる5月から9月の間だけ、水底から姿を現す。  今、目の前の展望台の向こうにあるのは、外壁だけ残してそれでも凛と立つ、異国情緒漂うレンガ造りの建物の全貌だった。  水底から現れて久々の太陽を浴び、一斉に芽吹く鮮やかな緑と、レトロなレンガとの対比が鮮やかだ。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加