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「それより、やっぱり今日の撮影もダメになっちゃったな。俺たちBグループだけ棄権かな」
背の高いメガネの男子が残念そうにつぶやいた。
「もう間に合いそうにないもんね」
「でもまだもう2日ある。静止画像をうまく繋いで、何とかならないかな」
「紙芝居かよ」
「確かにね。募集されてるのはショートムービーだし」
「絶望~」
先ほどまでの熱気が一気に白けた空気に代わる。陽菜も掛ける言葉が見つからないらしく、ガラッパが消えて行った水面を見つめていた。
賢治も水面に目を移す。眼下の水面を白とグレーの大きなサギがゆったりと横切って行った。この川内川でよく見る鳥だ。小さい頃、母親に教えてもらった。あれは確か、アオサギだ。
―――あ。
賢治は背負っていたデイパックを降ろし、慌てて中を探った。
「あった」
今朝、華京院から預かった小さな水晶が、カバンの中でクリアに輝いている。
賢治はそれを取り出し、さりげなく陽菜に近づくと、皆から少し離れた木蔭に手招きした。
怪訝な表情の陽菜の前に水晶を乗せた手を広げると、極力小さな声で華京院から伝授された『奥の手』を教えた。陽菜の目が途端に生き生きと輝き始める。
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