HOME ~この空の下で~

57/97
前へ
/97ページ
次へ
 陽菜は目の前の欄干にとまった巨大なサギに臆することなくきっちりと指示を与える。 「これを持って上空を飛べる? あの遺構が魅力的に映るように撮りたいの。あなたが普段するように、ゆっくり旋回しながら飛んでくれたら嬉しい」  陽菜が録画状態にセットしたスマホを差し出すと、長い首をひょいと一つ下げ、アオサギはひとつ羽ばたいて体を宙に浮かせた。陽菜が差し出したスマホを機用に長い足の指でキュッとつかむと、そのまま上空高く舞い上がった。羽根の縁だけくっきり薄墨で染めた翼は、あまりにも美しい。  その飛翔を見上げる生徒達から思わず「おお~」と、ため息のような声がこぼれた。  もう陽菜の指示は必要なかった。メンバーみんなが見守る中、巨大なアオサギはゆったりと上空を舞い、気持ちよさそうに遺構の傍すれすれを飛んだ。数分間の飛行は洗練されたショーのようで、見飽きることは無かった。  ため息まじりに生徒達が見守る中、最後のオマケとばかりに水面すれすれを滑るように飛んだあと、怪鳥は従順なしもべのように、陽菜の前にゆったりと羽ばたきながら戻って来た。  陽菜が手を差し出すと、その中にすとんとスマホを落とし、そして何事もなかったようにまた川の上流に向かって、ゆっくりと飛び去って行ってしまった。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加