HOME ~この空の下で~

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「このウライサも、まんざらじゃないだろう。帰りたく無くなったんじゃないかい? お嬢ちゃん」  暫くして華京院が問うと、星月夜ドリンクを飲みほした陽菜が、小さく首を横に振って笑顔を作った。 「私ね、このウライサでチャンスを貰ったと思ってるんです」 「チャンス、か」 「はい。だからそれを大事にしようと思います。大事にして、新しい自分と出会って、そしていつか帰れたらいいなって思うんです」 「へえ」  マスターが自分も飲み物を片手に持ちながら、ニコリとした。 「じゃあその日まで、ガラッパにバレないようにして楽しく過ごすがいいよ。こっちで頑張った事は、あっちでもちゃんと反映されてるはずだから。好きな奴がいるなら、告っちまえばいいさ」 「あ……いえ、それはまた、そんな、慌ててもあれですし」  華京院の言葉に顔を赤らめ、陽菜は急に頼りなくも可愛らしい少女に戻った。星屑の氷だけになったグラスをそっとカウンターに戻して、立ち上がる。 「あの、お手洗い借りますね」と言い置き、そのまま陽菜は小走りに消えてしまった。 「かわいいですね」  マスターが微笑む。 「そうでしょ。なんか、俺よりよっぽどしっかりしてるのに、なんか守ってあげたくなるんですよね」 「あの子はちゃんとわかってるよ。いろいろ感じ取ってる」 「感じ取ってる……ですか」 「あんたはどうだい? 元の世界に帰る気なんか更々ないんだろう」  華京院の言葉はかなり断定的だったが、賢治は何も反論できなかった。今もし目の前で扉が開いたとしても、やはり飛び込む気持ちになれない。
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