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「自分勝手だね」
華京院が静かにつぶやく。
「本当にそう思います」
「あんたさ、陽菜が頑張ってる姿見て、泣いたろ」
賢治はハッとした。遺構でのことだろうか。
「え……っと」
「死ぬのはまだ早いよ。あんたはまだ、見なきゃなんないものがいっぱいある」
華京院が静かに茶を啜ると、マスターも微かに口元を緩めた。
スッと長くしなやかな首をかしげて、「なにか温かい飲み物でも召し上がりますか?」と訊いて来てくれた。こんな情けない自分にも気を使ってくれるマスターに、賢治は少し惚れそうになった。
陽菜がいつも飲んでいる青いドリンク、たのんでみようかな、いやあれは女の子限定なのかな、などと考えていると、後ろから快活な声が飛んできた。
「賢治さん、トイレの窓から流れ星がいっぱい見えました! すごくきれいなの!」
トイレの方を指さして陽菜がはしゃぐ。
「そういえば今日はしし座流星群の沢山見える日だったかな。新月に近いし、外に出たらもっと綺麗に見えますよ」
マスターが言う。
「賢治さん、帰りましょう。流れ星の星月夜の下、一緒に走りましょう」
「え、今日も陽菜ちゃんちに泊まっていいの?」
「当たり前でしょう、ボディガードなんだからずっと一緒です。マスター、華京院さん、また来ますね」
陽菜は自分のドリンク代をカウンターに置いて一礼し、外に飛び出した。賢治も慌ててコーヒー代を払うと、陽菜を追う。
「また明日」
マスターのかけてくれた声は、やはり温かかった。
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