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陽菜の言った通り、今夜も眩しいほどの星月夜で、時折流れる星を横目で見ながら、賢治はスクーターを走らせた。
夜道には明らかに人では無い異形の物の怪が闊歩していたが、もうさほど気にならなくなった。たぶん陽菜もそうなのだろう。恐れる様子もない。ここでは物の怪は人々の中に溶け込んでいる。
それは元居た世界で言うところの、雨や風や陽射しや、そういった自然の一部みたいなものなのかもしれないと、賢治はフッと思った。
家に帰ると昨日と同じ、ありあわせのもので陽菜は夕食を作ってくれた。
賢治が苦手なオクラがサラダの中に入っていたので残すと、体にいいからちゃんと食べてくださいと叱られた。マヨネーズを山ほど掛けていると、子供ですか!と笑われた。
なんだか、懐かしいような、楽しいような、切ないような、いろんな感情が入り混じる。
目の前の小さな陽菜が、今日学校で懸命に頑張っていた姿を思い出し、それも胸を締め付ける。
28歳になっても、自分のこの複雑な感情の意味も分からない。人の感情はまるで複雑怪奇でカオスだ。ただ分かるのは、死んでしまったら無になるという事だけだった。何も分からないまま、自分は無になるのだ。
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