HOME ~この空の下で~

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 今日はちゃんと先生の話を聞く。小テストもやってみる。絶対授業中にぼんやりしない。賢治はそう心に決めたが、1時間目の数学でくじけた。三角比ってなんだ、サイン・コサイン・タンジェントって何の呪文だ。たぶん高1の自分はこのあたり、完璧にサボっていたのだろう。 2時間目の地理の授業は、なかなか興味深かった。あの頃はただ面倒で、何とかして寝ているのを気づかれないようにするのに必死だった記憶しかない。無駄に消えた時間が今頃になって惜しくて仕方なかった。  休み時間の陽菜を眺めるのも楽しかった。誰かと群れることはしないが、少し打ち解けて来たBグループのメンバーに呼ばれれば自然な様子で会話に加わる。 時折西島と目が合うと、ぽっと頬を赤らめて何気なく視線を逸らす様子が可愛らしかった。  青春かぁ。いいよな、やり直せるもんならやり直してみてぇよ。そんなことを思いながら臨んだ古文の授業はおじいちゃん先生の朗読が心地よく、あっという間に深い眠りに誘われた。 「賢治さん」  肩をゆすられて起きると、目の前に昨日と同じように総菜パンとコーヒーを持った陽菜が立っていた。もう4時間目がとっくに終わっている。 「おれ、寝てた?」 「それはいいんだけど、今日は一緒にお昼食べられ無さそう。ごめんね、1人で食べてくれますか?」
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