HOME ~この空の下で~

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 陽菜を含めたBグループのメンバーが帰って来たのは5時間目が始まるのとほぼ同時で、賢治は陽菜にガラッパについての報告は出来なかった。  斜め後ろの陽菜をそっと振り向くと、バッチリ目が合い、にんまりと満足げにピースサインを返して来た。ショートムービーの音声収録が無事完了したのだろう。賢治の前の席の西島も陽菜を振り返り、満面の笑顔を送るのが見えた。  周囲を見ると、Bグループの全員が頬を紅潮させて目を輝かせている。  ―――なんだ、一体どんな収録だったんだ。俺も混ざればよかった。いつの間にか西島ともいい感じだし。  嬉しい気持ちと仲間に加われなかった寂しさを抱えながら、賢治は配られたプリントを手に英語教師の流暢な英語に耳を傾けた。  5時間目は『コミュ1』と時間割りにあったが、どうやら極力日本語を使わずに行う英会話のような授業らしい。賢治の高校時には無かった授業で、少し新鮮だった。むろん英語などまるで分からないが、前列で聴講しているガラッパも同じだろうと思うと、背筋を伸ばして聞いている彼らに親近感を覚えた。  知らない言葉の中で自分の生まれ育った伊佐と酷似したこの世界を、賢治はぐるりと眺める。  ガラッパが居て、白狐が居て、田の神が居て、巨大なサギが居て。でもそれ以外は全く同じなのだ。クラスメイトから疎外されていた陽菜は、やはりここでも疎外されていて、家に帰っても、母親とはコミュニケーションを取る時間も無くて。 『私ね、この世界がなんなのか、考えてみたんです』  陽菜は、そう言った。いったい陽菜は、何に気づいたのだろう。この世界に何か意味があるというのだろうか。
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