42人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
賢治の声に少女は顔を上げたが、立ち止まるには至らなかった。走り寄った賢治とその少女は、ほぼ同じタイミングで発光する黄色いプレートに手を突いた。
それはまったく有り得ない感覚だった。
双方向から手を出した賢治と少女は何にぶつかるわけでもなく、その向こう側、いやそのプレートの内側数ミクロンの厚みの中にある世界に、するりと飲み込まれてしまった。おかしな話だが、他に表現が見つからなかった。
一瞬すべての音と光が途切れ、賢治の前にいるのは目を丸くして今まさに転びそうになっているセーラー服の女の子だった。反射的に出した手を、やはり反射的に握って来た少女と共に、賢治はぐっと地面を踏みしめた。
光はすぐに戻って来た。確かに何かを潜り抜けた気がしたが、二人が立っているのは、先ほどと同じ導水路のトンネルの中なのだった。ただ、蝉の声が一切しない。
賢治も少女も何が起きたか分からず、ぽかんとしたまま見つめ合う。けれどすぐに顔を赤らめて、握られた手を引っこ抜いたのは少女だった。
「あ! ごめん、その、転びそうだったから」
「いえ、全然! 平気です」
賢治だけでなく、少女まで必死になって首を横に振る。
白いセーラー服の少女はとても小柄で、ショートヘアが小さめの顔によく似あっていた。つぶらな目のせいか、子ウサギのような印象だ。
最初のコメントを投稿しよう!