HOME ~この空の下で~

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 相棒のスクーターは、風のようにウライサを突っ切っていく。  良かった。これで陽菜を元の世界に戻してやれる。さっきはガラッパにひやひやさせられてしまったが、そんなことはもう一瞬で過去のことになった。  ウライサで陽菜は時間が経つほどにしっかりと前を向き始め、生き生きとしていたが、やはり本当のところ、物の怪などいない、元の世界に一刻も早く帰りたいのだろう。賢治は陽菜の焦り方を見てそう感じた。  思ったよりも早く扉が開いてよかった。    黄色く色づいた田んぼの脇を走り、白狐や田の神やガラッパがのんびり散歩を楽しむ県道を抜け、賢治と陽菜の乗るスクーターはあっという間に曽木の滝公園の駐車場に到着した。 「とにかく走ろう、賢治さん。もう時間無さそう」  バイクから飛び降りると陽菜は賢治の手を引っ張った。 「あ、メットが」 「いいから早く! 扉が閉まっちゃう!」  陽菜の表情は必死だった。扉が開くのはこれが最後ではないのに、と、賢治はほんの少し笑ってしまった。やはりガラッパが本当は怖かったのだろう。  観光客の間を縫い、土産物屋の並ぶ公園を抜け、曽木の滝の迫力ある音を聞きながら走って行くと、ようやく導水路の入り口に続く散策路が見えて来た
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