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「い、今なんか妙な感じだったけど……、何だったんだろうね」
焦った笑いを浮かべつつ賢治は周囲を見渡したが、先ほどのプレートのようなものはどこにも見当たらなかった。
「……変な扉みたいなものをくぐった気がしたんですけど……」
少女も周囲を見渡しながら言う。
「そう、くぐったよね、扉みたいなもの。四角くて黄色い奴、ここにあったよね!」
「はい、黄色いの、ありました。なんか通り抜けた気がして」
「良かった、同じものが見えたんだ!」
「はい、見ました!」
もうその少しの会話だけで二人の間に奇妙な連帯感が生まれた気がして、賢治は嬉しくなった。目の前にいる自分の半分ほどの歳の少女が、長年の同志のように思えた。
「けど、二人して幻を見たのかな。何もないし」
「でも、やっぱりなんか、変な感じがします。蝉の声が消えちゃいましたし、それに……」
少女はまだあきらめられないらしく、奇妙な気配を探して周囲を見渡し、そしてある一点を見つめて続けた。
「それに、……有り得ないものが見えます」
「あり得ないもの?」
少女の視線の先を辿ると、導水路の途中の脇道から、その「有り得ないもの」が垂直に横切り、苔むした石の壁を楽々と飛び越え、消えて行った。
どう見ても、河童だった。
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