42人が本棚に入れています
本棚に追加
二日前と同じ石畳の小路を、今日は陽菜と二人で走りながら辿っていく。
黄緑色の木漏れ日、川のせせらぎ、陽菜の弾む息と、二人の足音。緩いカーブの先に、最初の石のトンネルが見えて来た。陽菜は足を止めない。けれど賢治は急に体が重くなるのを感じた。
トンネルを潜り抜けると、もうその次の短いトンネルの下に、目的のものが見えていた。あの日見たのと同じオレンジ色の四角い、半透明の扉だ。
賢治の足が止まった。陽菜が恐ろしいものでも見るように賢治を振り返る。
「何してるの賢治さん、何止まってるのよ!」
「先に行ってて。俺、……スクーターの鍵落として来たみたいでさ。拾ったらすぐ行くし」
「何バカな事言ってんのよ!」
そんなにバカな事を言ったつもりは無かったのに、陽菜は今まで見たこともないような怖い顔で自分の方を見ている。
ポケットの中の鍵が陽菜には見えているのだろうかと、賢治は少し不安になった。
「いいから先に行って、陽菜ちゃん。すぐ行くから」
「嘘よ、来ないよ! 私だけ帰して、自分は帰らないつもりなんでしょう」
「え」
「帰るよ! いっしょに帰るよ賢治さん。何のためにこんなに必死になってると思ってるのよ、冗談じゃないわよ! 早く来て」
陽菜が顔を真っ赤にしながらこっちを向いて仁王立ちした。目に涙が浮かんでいる。
ドキリとした。もしや陽菜は喫茶店で聞いてしまったのだろうか。賢治がここでは長く存在できなくなること。いやもしかしたら、罪を犯して逃げていることまで?
最初のコメントを投稿しよう!