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「いっしょに帰るよ! 消えてなくなりたいの?」
胸のあたりが凍り付いたように苦しく、言葉が出て来なかった。やはり陽菜はその一心でこんなに必死で急いだのだ。
「悪い事したから逃げて消えてそれでおしまいなんて、そんなのないよ、私賢治さんがそんな卑怯な人だなんて思いたくない。罪があるなら償えばいいじゃない! 賢治さんが居たから私こっちで頑張れたのよ、賢治さんが居ない世界とか有り得ない。消えてなくなるとかひどすぎるよ。そんなの絶対に許されないから」
陽菜は拳を握りしめてさらに顔を赤くした。陽菜を帰すことしか考えていなかった賢治はその言葉で我に返る。
自分は一体、どうしたいのか。消えてなくなりたいのか。罪から逃げ、自分から逃げ、陽菜を悲しませ、無になることが、水上賢治の生涯最期の決断なのか。
―――いや、違うだろ。有り得ねえだろ。
けれど決意を口にしようと陽菜の方に顔を上げた瞬間、賢治の目に映ったのは、もうすでに色を失くしかけた扉だった。
陽菜の背後で、それは空気に溶け、目を凝らさなければ見えないほど薄くなっていた。
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