HOME ~この空の下で~

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 冗談じゃない、留守番なんて退屈過ぎる。  賢治は急いで顔を洗うと、履き慣れた靴を履いて母親のあとを追った。母親の原付の後ろに飛び乗ると、滝のある公園までギュッとその腰にしがみつく。公園に着く頃には尻が痛かった。 『お店の人やお客さんの邪魔にならないように遊ぶのよ』  分かってる、いちいちうるさい。もう小学生なんだ。そんなこと分かる。  公園周辺の木々のまわりを走り回り、コクワガタを2匹捕まえて、戦わせて遊んだ。小さい方はすぐに負ける。 『育った環境で大きさや強さが変わるんさ。そのちびっ子い奴はやせた土で育ったな。大きい奴には一生勝てんよ』  少し酔っぱらった感じのおじさんが笑いながら言い、去って行った。  賢治は大きい方も、小さい方も投げ捨てた。何となく腹が立った。  周りには自分と同じ歳の子供が両親と楽しそうにアイスを食べている。アイスを買うお金は母親に貰ったが、そんなもの欲しくなんかなかった。  一人で階段を下り、壮大に水煙をあげる滝のパノラマを眺めた。腹に響く水音はいつまで聞いても飽きなかった。けれど、腹はすく。  滝の隅の岩の上で、白とグレーの細くて大きな鳥が、じっと水の流れを見ていた。S字の長い首をひゅっと伸ばしたと思ったら、あっという間に小魚を捕まえた。  あまりにもカッコよくて「すげー」と大声を出すと、礼を言うように鳥は羽を広げた。
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