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『あの鳥何? でっかくて首が長くて白っぽいの』
客の間をぬって、売店の母親に訊きに行く。
『アオサギでしょ。きれいよね、お母さんあの鳥大好き。……あ、すみません、すぐ行きます』
やっぱり忙しそうだった。母親はすまなさそうに賢治にお弁当をひとつ手渡してくれた。『一人で食べてくれる?』
けれど伝わってくる。ちゃんと思い出した。
自分は大事にされていた。愛はいっぱいそばにあった。やせて乾いた土地で育った、一生誰にも勝てない小さな虫なんかじゃない。
重い瞼を開けると、白い天井があった。
何度か瞬きして、賢治はゆっくり起き上がる。
病院の大部屋だ。なんで自分はこんな所に居るんだろう。
「3度目のお目覚めですね。あ、ようやく目の焦点が合って来た。検査してどうも無かったらすぐに帰れますよ。名前と年齢は言えますか?」
丁度病室に入って来たベテラン風の看護師が笑顔で訊いて来たので、賢治は名前と歳を答える。
「ばっちりです。先生呼んで来ますね」
去ろうとした看護師を呼び止め、恐る恐る訊いてみる。
自分はなぜ、いつからここにいるのか。そして今日はいつで、ここはどこなのか。
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