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談笑の途中に入り込んで悪いと思ったが、賢治は小太りの中年警察官に、そっと声を掛けた。
「あの……」
「やあ、退院できたんだね、おめでとう」
突然声を掛けて来たのは、こちらに背を向けていた婦人だ。ゆっくりと振りむいて来たその顔を見て、賢治は卒倒しそうになった。
「華京院さん! なんで」
「あれ、あたしの名を知ってんのかい?」
「当たり前でしょう、だってずっとウライサで……」
「ウライサ? 何だいそりゃ。導水路で倒れてるあんたを可愛いお嬢ちゃんと一緒に病院に運んだけど、さあ、今までどっかで会った事があるのかねぇ」
華京院はニヤケながら賢治に言う。絶対に嘘だと賢治は思った。水晶を通じて互いの伊佐の事は知っていると、向こうの華京院は言っていた。
けれど、この華京院が賢治の事を知っているとは限らない。
伊佐の人間でない賢治はこちらに影が居ないから、こちら側の華京院は本当に賢治の事を知らないとも考えられる。
一体どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか。
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