42人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
「河童だったよね」
「河童でした」
そのまましばらく二人とも黙り込んだ。たぶん有り得ないことが自分たちのまわりに起きている予感はあったが、あまりに奇妙過ぎて逆に声も上げられなかった。
まだそばに居る河童を刺激してはいけないという自己防衛本能が、無意識に働いていたのかもしれない。
クマに出会った時の感覚はきっと、こういう感じだろうと賢治は咄嗟に思った。
「……ひとりにならない方がいいかもしれない。このまま一緒に、そーっと公園の方に戻ろう」
声を殺して賢治が言うと、少女は無言で頷いた。
けれど、曽木の滝公園に戻っても、事態は好転しなかった。観光客は先ほどより少なくなり、その代り、それと同じ数の河童がいた。
先ほど警官が缶コーヒーを飲んでいたベンチにも、案内板の前にも。手足のひょろりと長い、頭に皿を乗せ、亀に似た甲羅を背負った奇妙な生き物たちが寛いでいるのだ。
目を凝らすと、河童だけでは無かった。長い鼻と首と2本のしっぽを持つ、2足歩行の白い動物もいた。
「狐……かな」
ぼそっとつぶやくと、「狐……だと思います」と、少女が返してくれた。
最初のコメントを投稿しよう!