HOME ~この空の下で~

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「確認取れたよ。その二人、福岡県警が手を焼いてた詐欺師カップルだったよ。一週間前に捕まってる。あんたが突き落としたあと病院に運ばれたらしいんだが、そん時ちょうど居合わせた警官が男の顔にピンと来て、すぐお縄になったらしい。姑息な手口で年寄りたちから金をだまし取って来た悪党だ。あんたも早いとこ被害届出すんだな。こういう奴らは懲りねえから証拠固めて、こってりきっちり絞り上げんといかん。……ああ、そうだ、男の方は肩の脱臼だってさ。骨の一本も折っちまえばよかったのに」  がははと、警官は大口を開けて笑い、店主は「やだお巡りさんが何言ってんですか」と、さらに大きな声で笑った。  賢治は言葉が出て来なかった。どう感情を整理していいか分からず、しばらく口を開けて呆けた。 「運が良かったね兄さん。でも、あくまで運だ。あんたが取った行為が褒められたもんじゃないって事は、分かってるよね」  華京院が静かに言う。賢治は深く頷いた。 「この世界で逃げ回っていただけなら、気づかなかったと思います。自分の何が腐ってるのか。でも、ウライサに行って、陽菜と出会って、気づかされました。俺……」  言葉が詰まって、もうその先が出て来なかった。  自分は法で裁かれることは無くなった。ここからただ一人の普通の人間として生きていけるという、ただそれだけのことが、もう本当に言葉にならないほど嬉しかった。  成長もしているわけでもない、前と同じちっぽけな自分だったが、体の中に温かい血が流れ始めたのを、今ようやく実感した。本当に不思議な気分だった。  特別な何かは要らないのだ。
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