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18インチほどのテレビからは審査員の選評が流れ、そして会場の拍手に代わった。
会場の照明が落とされ、拍手が静まると同時に画面がVTRに切り替わる。
静寂の中、画面いっぱいに広がったのは雲だった。そして一面の光。そのあとまるで雲を突き抜けるようにカメラは霞を抜け、地上を天空から映し出す。見覚えのある曽木発電所遺構の上空からのビジョンだ。
風を切る音。そしてバサリ、バサリとゆっくり羽ばたく羽根の音が、画面の揺れと重なる。それはまさに、翼を持つもの視点だ。
深い緑色の水面と、そのダムの底から姿を現したレンガの遺構、そしてそれを取り巻く緑の下草。その上空をゆっくり旋回する「翼あるもの」の心の声が、静かにスクリーンから流れてくる。
≪いつも いつも、今いるこの世界から、逃げる事ばかりを考えていた≫
陽菜の声だった。
≪辛い、寂しい、苦しい。自分がここにいる意味を見つけられなくて。どんどん自分が嫌いになって。
自分の楽園はここじゃない、きっとどこかに別にあるなんて。そんな事ばかり思ってた日々≫
知らず知らずに賢治は拳を握りしめていた。陽菜の声は、あまりに透明で、胸に沁みてくる。
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