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田んぼで農作業をする人々、豊作を祈り、畔の田の神の像に手を合わせる人、時々けんかしながらも、遠い道のりを歩いて帰る小学生。たくさんの人々の日常を映したアオサギの目が、静かに天使に語り掛ける。
≪逃げてもいいと思う。でも、楽園は無いよ。あるのはチャンスだけだ。
どの世界の人たちも泣いて笑っていっぱい悩んで、そして暮らしてる。君が居た世界と同じように。
君は今チャンスをもらったんだ。君がなりたい自分になれるチャンス。
このまちが気に入ったなら、ここで生まれ変わってみるといい。
鳥はそれだけ言うと大きく羽ばたいて、遙か川上を目指して緩やかに飛んで行った。
川内川の流れを上空から見おろしながら、私は手を握り締めていた。
楽園は無い。あるのは、自分がなりたい自分になれるチャンス……≫
視点は西日射す公園の、木々の間をゆっくりと降りる。土の上に伸びた天使の影。背中にあった翼の影が、サラリと風に溶けて消えていく。その演出に、天使の決意をしっかり感じた。
少女の影はやがて枯れ葉を踏んで歩き出す。画面はそのまますーっと黄昏の空に向かって上昇し、金色に輝く雲を映し出した。それに重なる『Welcom to Isa』の書体。
優しいBGMと一緒にエンドロールが流れると、警官と店主は溜め息と共に拍手をした。口々にその映像や演出のすばらしさをたたえて興奮気味だ。
賢治は、ただ言葉もなくそのエンドロールを見つめていた。胸がいっぱいで、拍手もできなかった。
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