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これは陽菜の物語だ。ウライサに行って賢治が戸惑っている間に、陽菜はすぐに何かを割り切り、くじけず、前だけ見て学校生活に挑んでいた。陽菜は元々、心の強い器用な子なのかと賢治は思っていた。
けれど違う。違ったのだ。陽菜は、あの奇妙なウライサが、自分にとって何だったのかに、気づいたのだ。
「無条件に自分を受け入れてくれる楽園なんかない。分かっていても、皆どこかでそんな世界に憧れる。もしも、例えばだ、日常とほんのちょっと違う非日常の世界があったとして、そこに迷い込んだとして、だ。あんたならどうする?」
華京院は、茶を啜りながら賢治に問いかけて来た。賢治はやはり言葉に詰まる。自分は、何もせずに、消えてなくなることを幸いとした。やり直すなど考えなかった。なりたい自分になれるのは、幸せな肥えた土の中で育った奴だけだと、どこかで思っていた。
でも陽菜は違った。
「チャンスに気づけたあの子は強くなるよ。きっと」
華京院がそう言ったすぐ後、店主が嬉しそうな声を上げた。テレビ画面には、受賞したBグループの8人が一カ所にかたまり、受賞の盾を持って満面の笑顔を浮かべている。
中心で盾を持って誇らしげにしているのは沙也加だ。その左横に居るのは陽菜。さらにその左に立つ西島に肩を抱かれ、陽菜はカメラなど意識下に無いくらいに頬を染めて、ガチガチになっている。
賢治はすぐにでも傍に駆けつけて、「西島、その手NG!」と忠告したい気分だった。
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