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二章
それは僕が十六歳の誕生日を迎えて少しばかりだった頃の放課後だった。スマホを見ながら廊下を歩いていると、とある生徒とすれ違う。ハチミツが混ざったような甘い香りに、僕は振り返って目を瞠る。
背が高い。しかもスカートを穿いている。伸びた脚はスラリと細長く、腰まで伸びた黒髪はツヤツヤだ。
「待って!」
僕は駆け出して彼女の細腕を掴んだ。思ったより硬い。
「……何ですか?」
彼女の美しい眉根が寄せられたことも気にならない。そんなことより、彼女に見下ろされていたことが衝撃だった。
「きみ、すごく背が高いね……名前は?」
「……舞です」
息を飲むほど美しい。声、異常に低いけど。
「舞さんかぁ。似合ってるよ、その名前。僕、トーマ。友達になろうよ」
「……私、男女間に友情は成り立たないと思っていますから」
そうか、僕は普段スラックスを穿いているから気づかなかったかな。なんせ男よりカッコいいし。先生に怒られてるけど。
「あぁ、僕は女だよ。当麻雛子」
「……知ってます」
「あ、知ってるんだ。ねぇ、どこのクラス? 君みたいな綺麗な子に今まで気づかなかったなんて僕もバカだな」
その時彼女の綺麗な脚が弧を描いた。僕は驚きながらもひょいとそれをかわす。教室の壁に僕の背中と彼女の右足が着いた。随分暴れん坊な娘だなと思っていると、彼女の低い声が更にワントーン下がった。
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