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「……じゃあ、僕たちが追ってる彼らにとって、僕は魔王なのかな」
「魔王というより、死神に近いかもなぁ。数年ごとに自分の種族を滅ぼしに来る存在って、もう『現象』系の何かだろ」
「それもそうだね」
正論だ。反論も文句も何も浮かばない。
……が、釈然としていなさそうなキリュアの顔を見て、首を傾げた。
「ん? どうかした?」
「いや、あっさり納得するところなのか、と思っただけだ」
拍子抜けしたような彼女の言葉に、思わず苦笑する。
いつも鋭く意見を言ってくるくせに、おかしなところで疑問を抱くのだ。やや抜けているというか、竜にしては、彼女も変わっていると思う。
「僕も本質は人間じゃないんだよ、キリュア。『勇者』っていう概念が、神々によって具現化されたものなんだから。彼らに個人として見られなくても、何とも思わないさ。元の存在からして、違うものなんだし」
「……そういやそうだった。私もお前も、別世界で紛れやすいから、っていう理由でこの姿にしたんだっけな」
軽く息を吐き、彼女が杖を掲げる。
先ほど、空に展開したのは、魔王を追跡する魔術と、転移の魔術だ。
既に、この世界に魔王はいない。だったら、僕たちも移動しなければ。
「お前も変わってる、とは言ったが――さっきの人間も、変わっていたな。国家を転送した以上、もう戦う意味なんてなかった筈なのに」
「え……? じゃあ、なんでこいつは襲ってきたんだ?」
「ふむ……まぁ、連中の特性を考えていうのなら」
一呼吸おいて、彼女が言った。
「意地ってやつだろう」
「――――、」
それに、少しだけ驚いた。
彼女がそこまで「彼ら」を理解していた、ということにではなく。
どんなに文明を発展させた「彼ら」でも――その本質に変わりはない、ということに。
「……凄い、な。それは……」
「それが人間ってやつさ。……ま、知っての通り、人間は本来エルフとも勝負にならないほど、短命な種族なんだ。不老不死に到達しちまった末路が、このザマさ」
魔術と科学を発展させた彼らは、生まれつき自分たちが持つ欠点を全て克服した。
決して老いない身体。自然には朽ちない魂。けれども――同時に、彼らは元々持っていた多くのものを失ってしまったのだ。
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