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そして世界が滅んだ。
緑豊かだった土地は、生命の色を感じさせない灰色へ。
澄み渡る青だった空は、暗雲と赤色が入り交ざる混沌へ。
あまりにも「それらしい」風景だったので、僕は暫く動きを止めていた。
すると突如、青い髪の女性が視界に映り込む。
「起きたか。割と早い目覚めだったな、レギト」
「……キリュア」
「滅んだぞ。いつも通り」
そうか、と力のない返答をしてしまう。彼女の口調が、あまりにも淡々と、はっきりしたものだったからだ。
キリュアという女性は、魔法使いである。
彼女の種族は普通、「魔法」というものに適性がないらしいのだが、キリュアはその中で、なぜか才能を発揮したという。原因は本人でも分からず、「ひとまず才能はあるから勇者の従者になって来い」という、追放まがいな命令で僕と行動を共にしている。
「立てるか?」
「……なんとか」
仰向けだった状態から起き上がる。身体は鎧の装備で覆っていたのだが、直前の出来事で、随分とボロボロになっていた。一度、鍛冶屋にでも行って調整した方がいいだろう。
手元に転がっていた剣の柄を握る。刃に錆びは一つとしてなく、けれど、それは血にまみれていた。
「それで――魔王は」
「消えた。国ごとな。お得意の転移魔法さ。追跡中だが、こりゃ三日と経たない内に撒かれるだろうな」
辟易とした様子で肩をすくめるキリュア。
過去、何度もこうして魔王を追い詰めはしているのだが、いつも上手く逃げられるのだ。
肝心なところで運命に強いというか、土壇場で力を発揮するというか、とにかく魔王は粘り強い。その才能、むしろ此方が欲しいところなのだが。
「……また滅んだか、世界」
「また滅ぼしちゃったぜ、世界」
地平線の果てまで広がる荒野を眺めて、二人でそう呼応する。
この光のない世界が示すのはただ一つ。
僕たちは、まだ旅を続ける必要がある、ということだ。
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