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「貴様らは何故あと一歩、というところで出現するのだ。間が悪いにもほどがある」
「……あと一歩、か。結構ギリギリだったんだな、今回は」
「いやぁ、魔王国家は成長が早すぎるんだよ。民も含めて、どうしてそこまで一生懸命になれるのか、私には分からないね」
「生きたいからだ」
魔術師が即答する。
生きたい。死にたくない。それは確か、魔王自身の衝動であり――また、その市民全てが抱いている欲求ではなかったか。
「……その願いは分からなくもないけれど。僕は、それを認めることはできない」
「誰も、貴様に理解など求めるものか。勇者と相容れるなど、夢物語にも等しいことだ」
「嫌われてるなぁ、お前」
「貴様もだ、竜種の魔法使い。世界を滅ぼす旅は、そんなに楽しいか?」
「もちろん。楽しいし、面白い。世界が滅びる情景には、確かに胸をうつものはあるが――とりわけ面白いのは、やっぱり勇者だな!」
「下らん」
鼻を鳴らし、一蹴する男。
長い黒髪の隙間から見える目には、やはり恨み、憎しみの感情が映っている。解っていたことではあるが、ここまでストレートに来ると新鮮に思えてしまう。
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