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「勇者。魔王を一片の慈悲なく撃ち滅ぼすもの。命令に従う機械人形ではなく、れっきとした『個人』の意志を持つもの。……生み出した神々も、中々良い趣味をしているものだな」
その言葉には、多少感じ入るところはある。
勇者、という魔王を倒す存在なら、役割を完璧にこなす人形の方が良かっただろう。自我があり、意志があることを、不満に思うことは、一度や二度くらいあった。
けれど。
「これでも僕は、選択できる意志をくれたことには、感謝してるんだ。役割を放棄して逃げていた、っていう可能性もあっただろうし」
「魔王との戦いは、己から志願したもの、ということか。勇敢だな。世界を敵に回し、滅ぼす覚悟があるとは」
「おいおい、嫌味を言うか褒めるのか、どっちかにしろよ」
「なに、ただの皮肉だ人外。だが……納得したぞ。やはり勇者は、私たちが思っていたものとは違う存在だったらしい」
「……、」
違うもの。違う種族。違う――生物。
彼が言ったのは、そういうこと。人の形をした何か。人ではない――別のモノ。
「それは、当たり前のことだろう。種族であれ何であれ、あらゆる個体は『別のもの』だ」
「その通り。故に勇者、私は確信したぞ。貴様とは、どう足掻いても和することなどできないとな。貴様は――神々よりもタチが悪い。魔王を倒すために在る……災害だといえる」
そこで、ゆっくりと魔術師が立ち上がる。
長杖を出し たキリュアを片手で静止し、剣の柄に手をかけて前に出た。
「何か、言い残すことはあるか」
「特にはない。私は、私の役割を既に果たしたのだから」
「そうか」
――剣を抜き、構える。
それは魔王を滅ぼすための聖剣。魔王国家に属する生命全てを、殺害するために打たれた、神々からの贈り物。
「勇者。貴様に、後悔はあるか」
「微塵もない」
「――は。ならいい」
交差は一瞬だった。
剣を振りかざすと同時、魔法によって編まれた腕が刃となって襲い掛かる。
一度目の衝突で片腕を打ち壊す。
そうして次の二撃目には――もう決着が見えていた。
「……ああ。終わりも、悪くはないか――」
胴体を袈裟切りにする。
相手が地面に倒れ、その生命の気配が消失してから、自分の勝利を認識した。
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