勇者

4/4
前へ
/14ページ
次へ
「勇者。魔王を一片の慈悲なく撃ち滅ぼすもの。命令に従う機械人形ではなく、れっきとした『個人』の意志を持つもの。……生み出した神々も、中々良い趣味をしているものだな」  その言葉には、多少感じ入るところはある。  勇者、という魔王を倒す存在なら、役割を完璧にこなす人形の方が良かっただろう。自我があり、意志があることを、不満に思うことは、一度や二度くらいあった。  けれど。 「これでも僕は、選択できる意志をくれたことには、感謝してるんだ。役割を放棄して逃げていた、っていう可能性もあっただろうし」 「魔王との戦いは、己から志願したもの、ということか。勇敢(・・)だな。世界を敵に回し、滅ぼす覚悟があるとは」 「おいおい、嫌味を言うか褒めるのか、どっちかにしろよ」 「なに、ただの皮肉だ人外。だが……納得したぞ。やはり勇者は、私たちが思っていたものとは違う存在(モノ)だったらしい」 「……、」  違うもの。違う種族。違う――生物。  彼が言ったのは、そういうこと。人の形をした何か。人ではない――別のモノ。 「それは、当たり前のことだろう。種族であれ何であれ、あらゆる個体は『別のもの』だ」 「その通り。故に勇者、私は確信したぞ。貴様とは、どう足掻いても和することなどできないとな。貴様は――神々よりもタチが悪い。魔王を倒すために在る……災害だといえる」  そこで、ゆっくりと魔術師が立ち上がる。  長杖を出し たキリュアを片手で静止し、剣の柄に手をかけて前に出た。 「何か、言い残すことはあるか」 「特にはない。私は、私の役割を既に果たしたのだから」 「そうか」  ――剣を抜き、構える。  それは魔王を滅ぼすための聖剣。魔王国家に属する生命全てを、殺害するために打たれた、神々からの贈り物。 「勇者。貴様に、後悔はあるか」 「微塵もない」 「――は。ならいい」  交差は一瞬だった。  剣を振りかざすと同時、魔法によって編まれた腕が刃となって襲い掛かる。  一度目の衝突で片腕を打ち壊す。  そうして次の二撃目には――もう決着が見えていた。 「……ああ。終わりも、悪くはないか――」  胴体を袈裟切りにする。  相手が地面に倒れ、その生命の気配が消失してから、自分の勝利を認識した。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加