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見上げる空には
「過疎の街は、神様にとっても住み難いんだね」
泉がテレビを見ながらつぶやいた。
「バトちゃんのお話、また聞きたかったナ」
和香が膝を抱えたままソファの上でうなだれている。
そこへ小百合が帰宅した。
息を切らし、束ねた黒髪が背中で踊っていた。
「お姉さま、和香ちゃん、ちょっと一緒に来てくださいます?」
「何、慌てて?らしくないわね。どこに行くの?」
「ほんの15分でいいんです。ふたりとも私に時間を下さい」
泉はテレビの電源を切って立ち上がると、カバンをとって肩にかけた。
和香も立ち上がり、せかされるように小百合の車に乗った。
りんも一緒に車に乗る。
「どこへ行くの?」
泉が尋ねた。
「前目馬頭観音神社です」
小百合が答えた。語尾がかすかに震えている。その様子からただ事でないと察する事ができた。
「だって、神社にはバトちゃんもういないんでショ?」
和香も怪訝な顔だ。
「着きました。みてください」
県道から馬頭観音神社にはいる山道の入口に、古びた鳥居がひとつ。
「ええー?ここからまた神社まで歩いて上がるの?」
そう泉が口に出した時、大きな声が響いた。
(こりゃ!!不信心な娘らが。ところで焼酎は持ってきたか?)
鳥居から山を見上げると、透けてはいるが、山と同じほどの巨大な馬頭観音様が見える。
長い竜のような手を伸ばすと、山道の入口に立つ姉妹のところへ手が届く。
小百合は、車から焼酎の一升瓶を下ろし、馬頭観音様に渡した。
「な、何?何これ?馬頭観音様は力使いはたして消えちゃったんじゃないの??」
「バトちゃんまるで、ダイダラボッチだネ」
泉も和香も目を丸くする。
「あの親子の父親の方がのう、ツイッターというものに、わしが犬を治した事を書いたらしいんじゃよ。その評判が評判を呼び、遠くからだがわしを拝んでくれる人が増えたんじゃ。あんまり増えたもんじゃから、体がこんなに大きうなった」
「和香ちゃん、ツイッターで#(ハッシュタグ)前目馬頭観音神社で引いてみてくださいませ」
小百合の言葉に和香がスマホを取り出し、ツイッターを開いた。
そして目を見開き小さな声で叫んだ。
「前目馬頭観音神社、フォロワー数、十五万人ダヨ!!」
山の上にこれまた山のように鎮座する馬頭観音様を見上げ、三姉妹は安堵と驚きを混ぜこぜにした、大きな大きなため息をついた。
馬頭観音様は、大きな大きな山のような頭をポリポリと掻かながら、
「てへへへ」と笑っていた。
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