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蟻地獄
山口小百合(さゆり)は大きな一眼レフを首から下げ、曲がりくねった山道を歩いていた。
落ちたクヌギや杉の葉にところどころ隠された路面は勾配がかなりきつい。
首に巻いたタオルの端を持ち上げ、額の汗をぬぐった。
175センチを超える背の高い小百合の背には小さなバッグが背負われており、虫刺されを防ぐために上着は薄手で長袖の作業服を着用していたが、暑さのために肘までめくりあげていた。
ヒグラシのカナカナという声と杉の葉の匂い、落葉の積み重なり腐葉土へとかわる過程の匂いが木々の中に混ざり、暑さをいくぶんか和らげてくれてはいたが、8月中旬の空気はまだ夏の様相である。
10分ほど歩くと、トドメとばかりの急なのぼりとなったが、のぼり切ると百坪ほどの開けた平地が静かな森の中に広がっていた。
その中央に古びた小さな神社が建っており、以前、近くの自治会の人たちが除草をしたのであろう、草を刈ってはあるが、頭の方を切られた雑草が十数センチにまで伸び始めていた。
赤い塗装はとうにはげ、灰色の柱がむき出しになってはいるが、お社はなかなかに造りの良いものであった。
歳月を経て、壁板のあちこちに割れがあったり、柱の角が削れている。
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