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〇プロローグ
仰向けに、身体が緩やかに沈んでいく。
冷たいような温かいような水に満たされて、見上げると揺らぐ水面を透した青い空が広がってる。
「ねえ、エルダ。僕だよ。聞こえるかい。百年ぶりかな」
耳元で男の声が響く。
柔らかく心地よい、若い男の声。
「こんな遠くまで逢いに来てくれたんだね。ほんとに久しぶりだ。君とまた一緒に踊りたいよ。早くしないと、僕はまた水の底に沈んでしまう」
やさしげに語る声の後ろで、ゆっくりとオルゴールの柔らかな音色が流れている。
ふと見れば、彫の深い色白な男性が、笑みを浮かべてこちらに向い手を伸ばしている。
大きな手の綺麗な指先が、ふっと自分の指に触れた。
まどろみの世界の中、心地よい浮遊感に包まれ、山口早百合は柔らかなベッドの上で目を覚ました。
重い瞼をゆっくり開けると、東向きの窓にかかった、ロールスクリーンの隙間から差し込む朝の光が眩しかった。
「不思議な夢、、、、でもステキな夢」
彼氏いない歴イコール年齢の早百合は、異性に超奥手で、男性と逢う夢などついぞ見たことがなかった。
というか、夢どころか現実においても「メカマニアの長身女子」ということで男性達には敬遠されており、男性と逢うことなど皆無で、まして手を触れあうなどということはあるはずもなかったのだが、夢の中の男性の声は妙に早百合の心の奥に響き、心の襞に触れるものがあった。
夢の中の出来事だったというのに、男の指とほんの少し触れた自分の左手の中指に、甘い火照りが残っていた。
余韻に浸りつつ、ふと気がつくと夢の中で鳴っていたオルゴールは、現実にも音をたて曲を奏でている。
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