〇プロローグ

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  メロディがゆっくりになり、そして止まった。  「このオルゴールの音のせいで、あんな夢をみたのでしょうか? しかし、何故鳴ったのかしら。昨夜鳴らしながら眠りについたけれど、ゼンマイが途中で止まって、今朝になってまた動いたのでしょうか」  早百合は、上半身を起こし、ベッドサイドのデスクの上にあったオルゴールを手に取った。  掌より少し大きな、城の形を模したオルゴールだ。  かなり古いものらしく、購入した横浜のアンティーク店では、店主の老婆から百年ほど昔のものだとの説明をうけた。  これといった華はないのに、なぜかその作りと音色に魅かれ、1万円も出して購入してしまった。  何より手にした時の安堵感は言葉で説明できないほどで、じっと見ていると、城の形をしたオルゴールの周りに、オレンジ色の壁の三角屋根が並ぶ、レンガ造りのヨーロッパの街並みが見えるような気がした。  奏でる曲名もわからないのにこれほど気に入るとは、自分自身がちょっとロマンチックに思えて幸せな気分になれた。  そして、未だ微睡(まどろ)みからの支配を完全に拭えていない半開きの瞳が、壁にかけてある時計を見て一気に丸く大きく開かれた。時計は7時30分をさしていた。
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