〇依頼

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〇依頼

 泉が勤務する伊佐市地域振興課は、築五十年になる古びた市役所北庁舎の二階にあった。  泉の仕事は「地域おこし協力隊」として、市のイベントやPRを手伝う事と、空き家バンクの管理である。過疎の街はどこも人口減や流出により、空き家が増えている。  過疎の街では数軒に1件の割合で空き家があり、治安上も問題となっている。  実際、政府も対策を始めており、国土交通省は「空き家再生等推進事業」を打ち出している。  危険廃屋の除去や、程度の良い空き家をリフォームする資金を国と市が負担するというものだ。  泉の担当である「空き家バンク」は、このような資金を使いリフォームした空家や、比較的程度の良い空き家を、手放したい人から買いたい人へ紹介するシステムである。  宅建の資格をもつ泉にはもってこいの仕事だ。  また、彼女がこの仕事で好評を得ているもうひとつの理由があった。  例えば、夢や希望をもって建てた家なのに、やむにやまれぬ理由で手放さなければならない場合もある。  そのような場合、空き家には建てた人間の「念」が残る。  その「念」は新しく空き家を買ったひとの精神と必ず(あた)る。     
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